講師が解説! お役立ちQ&A
薬剤師アカデミー各回で先生が話されていた内容をQ&A形式で公開しています。
医療従事者向けの情報であり、セミナー開催時点での情報であることをご了承ください。
テーマ
心不全診療ガイドライン2025~薬剤師が知るべきポイントとは~
講 師

猪又 孝元(いのまた たかゆき)先生
プロフィール
新潟大学大学院医歯学総合研究科 循環器内科学 主任教授
心不全のスペシャリストであり、心不全をはじめとした心臓・循環器疾患の予防や啓発活動にも取り組む。日本心不全学会の理事として総務委員長などを担う。日本心不全学会・日本薬剤師会『薬剤師による心不全服薬管理指導の手引き』(2024年8月第1版)の作成メンバー代表。著書に、『心不全管理をアートする-脚本はどう作るのか』など。
ご略歴
1989年 新潟大学医学部卒業
1996年 独・マックスプランク研究所リサーチフェロー
2016年 北里大学北里研究所病院循環器内科 部長・教授
2021年 新潟大学大学院医歯学総合研究科 循環器内科学 主任教授
2022年 新潟大学大学院医歯学総合病院 副病院長
ご略歴
1989年 新潟大学医学部卒業
1996年 独・マックスプランク研究所リサーチフェロー
2016年 北里大学北里研究所病院循環器内科 部長・教授
2021年 新潟大学大学院医歯学総合研究科 循環器内科学 主任教授
2022年 新潟大学大学院医歯学総合病院 副病院長
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Q1
「心不全診療ガイドライン2025」で、示された「前(プレ)心不全」について、教えてください。
A1
心不全の進行は、生活習慣病などのリスク因子のみの「ステージA」、構造的・機能的心疾患やBNP高値などがみられる「ステージB」、心不全症状・徴候を伴う「ステージC」、そして重症の心不全である「ステージD」――の4段階に分けられます。
今回改訂された「心不全診療ガイドライン2025」では、症候性心不全(ステージC)に至る手前の「前(プレ)心不全=ステージB」を、予防における重要な時期と位置づけて、記載を充実させています。
具体的には、症状や徴候はないものの、左室・右室機能障害、心室肥大、心腔拡大、壁運動異常、弁膜症などの構造的心疾患を有する、BNP/NT-proBNPが他の原因なく高値を示すケースなどが含まれます。この段階で、十分に介入することで、ステージCへの進展を防ぐことが重要です。 -
Q2
BNP/ NT-proBNPは、どのように見ればいいのでしょうか。
A2
BNP/NT-proBNPは、心不全を鋭敏に反映する代表的なバイオマーカーです。
日本心不全学会の「BNP/NT-proBNPを用いた心不全診療に関するステートメント2023年改訂版」では、国際基準に基づき、心不全の可能性を示すカットオフ値をBNP 35 pg/mL以上、NT-proBNP 125 pg/mL以上としています。
BNP/NT-proBNPは特に陰性的中率が高いことが特徴であり、これらを下回る場合は、直ちに治療が必要な心不全である可能性は低いと考えられます。
さらに近年は、うっ血の早期発見や治療強化、GDMTの最適化を目的とした「BNP/NT-proBNPガイド治療」に注目が集まっています。
押さえておきたい数値は次のとおりです。
BNP 100 pg/mL超:心不全(ステージC)の診断基準
BNP 200 pg/mL未満:心不全コントロールの目安
NT-proBNP ≒ BNPの約4倍
つまり、慢性期の心不全コントロールは BNP 100~200 pg/mL を一つの目安と考えることができ、「100・200・4倍」の数字を意識することが重要です。
ただし、BNP/NT-proBNPは、心房細動や腎機能障害、加齢、肥満などによって影響を受けます。患者背景を考慮して、経過を見ることが大切です。 -
Q3
心不全患者への飲水指導はどう考えればいいですか。
A3
「心不全診療ガイドライン2025」に明記されているように、心不全患者に対して一律に水分制限を行う必要はなく、原則として水分制限は不要です。ただし、重症心不全、低ナトリウム血症、高度な腎機能障害を合併している場合は例外です。その場合は、主治医からの具体的な指示を確認してください。
一般的な飲水指導としては、1日1~1.5L程度を目安に摂取を促してください。その際、スポーツドリンクや経口補水液などは、糖分やナトリウムを多く含むため、避けるよう説明することも大切です。特に経口補水液はナトリウム含有量が高く、心不全の病態を悪化させるリスクがあります。
※2025年8月21日(木)の薬剤師アカデミーでのご講演を基に作成したQ&Aです。
テーマ
薬剤師が知っておくべきアトピー性皮膚炎の薬物治療
講 師

江藤 隆史(えとう たかふみ)先生
プロフィール
あたご皮フ科副院長/東京逓信病院皮膚科客員部長/
日本臨床皮膚科医会会長 昭和52年東京大学工学部計数工学科卒業後、昭和59年3月東京大学医学部医学科卒業。東京大学医学部皮膚科、関東中央病院皮膚科、ハーバード大学病理学教室研究員を経て、東京大学医学部皮膚科講師・病棟医長、東京逓信病院皮膚科部長、同病院副院長などを歴任し、平成31年4月より現職。日本臨床皮膚科医会会長、東京大学皮膚科教室同窓会会長。医師向けの「臨床力が高まる皮膚科診断クイズ」(学研プラス、2021年)」などから一般向けの「子どものアトピー性皮膚炎 正しい治療法 (健康ライブラリーイラスト版)」(講談社、2016年)まで著書多数。
日本臨床皮膚科医会会長 昭和52年東京大学工学部計数工学科卒業後、昭和59年3月東京大学医学部医学科卒業。東京大学医学部皮膚科、関東中央病院皮膚科、ハーバード大学病理学教室研究員を経て、東京大学医学部皮膚科講師・病棟医長、東京逓信病院皮膚科部長、同病院副院長などを歴任し、平成31年4月より現職。日本臨床皮膚科医会会長、東京大学皮膚科教室同窓会会長。医師向けの「臨床力が高まる皮膚科診断クイズ」(学研プラス、2021年)」などから一般向けの「子どものアトピー性皮膚炎 正しい治療法 (健康ライブラリーイラスト版)」(講談社、2016年)まで著書多数。
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Q1
ステロイド外用薬の使い方を説明する際のポイントは?
A1
ステロイド外用薬は、炎症をしっかり抑えるために「十分な量を、十分な期間使うこと」が非常に重要です。
「ステロイドが効かない、塗ってもどんどん悪くなる」と訴える患者さんは、薄く擦り込んで塗っていることがほとんどであり、使用量の目安をしっかり説明することが大切です。
使用量の目安は、手のひら2枚分の広さの皮膚に対して、1FTU(フィンガーティップユニット、約0.5g)を塗布するのが適量とされています。1FTUとは、成人の人差し指の先端から第一関節までの長さにチューブから出した量です。
ただし、チューブの口径などによって多少の違いがありますので、あくまで目安であり、そのくらい「多めに塗布しよう!」という“合言葉”と捉えてください。
患者さんには、1TFUの考え方とともに、「ティッシュが貼り付くくらいのべとつきを目安に、しっかり塗ってください」と説明すると、イメージしやすくなると思います。
塗布量の指導は、繰り返し行うことが大切です。塗り方の理解が不十分なことが多いので、薬局でも、塗布量の説明とともに「十分な量を継続的に塗布することが治療の鍵」であることを定期的に伝えてもらえるといいでしょう。 -
Q2
患者から「薬はいつまで使うの?」と聞かれた場合、薬剤師はどのように答えるのがよいでしょうか。
A2
患者さんを対象とした調査では、アトピー性皮膚炎の治療において、医療者に最も望むこととして「いつまで塗り続けるべきか指導してほしい」と回答した人が3割を超えており、これは患者さんの大きな関心事となっています。実際、薬局でも相談を受けることが多いでしょう。
最も重要なのは、患者が自己判断で外用薬を中止しないようにすることです。自己中止は炎症の再燃リスクを高め、症状を長期化・悪化させる要因となり得ます。
アトピー性皮膚炎では、症状が落ち着いて皮膚が一見正常に見えても、実際には組織内に炎症細胞が残存し、再燃しやすい状態が続いていることがあります。この「潜在的な炎症」が残っている時期には、ステロイド外用薬などの抗炎症外用薬を間欠的に使用して寛解を維持する「プロアクティブ療法」が推奨されます。
プロアクティブ療法は、炎症が再燃してから使用する「リアクティブ療法」と比べて、再燃を抑制しやすく、結果的に外用薬の総使用量を減らせる可能性があります。特に、再燃を繰り返す症例では重要な治療戦略と考えられます。
患者さんには、症状が改善しても皮膚の内部には炎症が残っていること、そして再燃を防ぐためには治療の継続が不可欠であることを説明してください。医師の指示に基づき治療を続ける意義を丁寧に説明し、患者さんの不安や疑問に対応し、寄り添いながら治療の継続をサポートすることが求められます。 -
Q3
ステロイド外用薬と保湿薬が処方されている場合、どちらを先に塗るのがよいのでしょうか。
A3
保湿薬とステロイド外用薬の塗布順序については、これまでの報告から、どちらを先に塗布しても効果や安全性に有意な差はないと考えられています。
実際には、塗布面積の広い保湿薬を先に全体へ塗布し、その後にステロイド外用薬を病変部に限定して塗布する方法が指導されることが一般的です。ステロイドを先に塗布してから保湿薬を重ねると、ステロイドが本来不要な部位にまで広がってしまう可能性があるためです。
しかし、塗布量が増えるとアドヒアランスは低下しやすく、保湿薬を先に塗るルールでは、疲れて帰宅した際などで、保湿薬だけを塗布してステロイド外用薬を省略してしまうケースも想定されます。そのため、まず抗炎症薬であるステロイド外用薬を塗布するよう指導する医師もいるでしょう。
塗布順序には明確な優劣はありませんので、患者の性格や生活習慣、アドヒアランスの状況に応じて柔軟に指導方法を調整することが重要です。
※2025年7月31日(木)の薬剤師アカデミーでのご講演を基に作成したQ&Aです。